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眼鏡の縁越しに見える女王様はこちらに一瞥もくれず画面に集中している。
特にあのメールに反応を求めている風にも見えない。
「意味なんてあるわけないか…」
メールを閉じてしばらく仕事に集中しようとしたけれど、どうにも気が散って仕方ない。
もし彼女が困っていたら?
「…クソ」
俺には珍しく悪態をついた。
いつから俺はこんなに心配性になったんだ?
今日は死ぬほど忙しいのに。
ええい、仕事の効率のためだ。
“仕事後、あの店に行けますか?
そこで聞きます”
飛躍しすぎの気もするが、どうせ断ってくるだろう。
とにかく仕事を片付けるんだ。
迷う前に送信して、気の済んだ俺は画面を閉じた。
ところがようやく戻った集中力を、再びの着信アラートが邪魔をした。
それは意外な返事だった。
“大丈夫?今日は忙しいのでは”
なぜ断らない?
だから俺は離れられないんだ。
“今晩は現地待ちなので食事で抜けます”
“退社時メールします。
無理なら遠慮なく言って”
表情まで読み取れるこの距離の、一切目線を合わせないやり取り。
多くを望まないはず俺の意思は、フラフラと揺らいでいた。
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