第4章

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店に入ると、先輩は前と同じカウンター席で肘をつき、紫のカクテルを眺めていた。 “私、浮気しないの”とか抵抗してたくせに、あの酒は気に入ったらしい。 「早かったのね」 俺に気づくと、彼女は硬かった表情を少し緩めて微笑んだ。 「今、ちょうど抜けられそうだったんで。一時間ぐらいですが」 「ごめんね。出張直後なのに」 「いえ」 本当は、あまり時間がないのを無理して出てきた。 軽く腹ごしらえできるものを注文してから、早速本題に入った。 「小椋、かなりひどく突っ掛かってきたんですか?」 「まあ、そうね。……でも、私もかなり言い返しちゃったから」 先輩は珍しく歯切れ悪く口ごもるとカクテルを揺らした。 「先輩が?なんでまた」 「小椋さんから聞いてないの?」 「何も」 先輩の説明によると、俺達がタクシーに乗り込むところを誰かに目撃され、それを知った小椋がトイレで先輩に食ってかかったと。 「へぇ。それで? どう答えたんですか?」 先輩には悪いけど正直“小椋よくやってくれた”感がある。 俺も初志貫徹できないもので、澄まし返った先輩が俺のことで引っ掻き回されるのは愉快だった。
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