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「ただ居合わせたから相乗りしただけって答えたわ。……だって、そう言うしかないでしょ」
ツンと顎をあげて答えた先輩は、口を尖らせて決まり悪そうにもじもじとフェードアウトした。
わざと彼女と視線を合わせると、睨み返しながらも頬を赤らめたのが分かった。
あの夜、彼女の抵抗に構わずかなり大胆にやった色々を思い出したに違いない。
ついニヤリと口の端が上がる。
「別に事実のまま言ってもらって構わなかったのに」
「まさか!」
憤慨して大声を出した彼女は、料理を運んできた店員に気づき慌てて口をつぐんだ。
完璧なようで、いじると素直に感情をあらわにする。
こんな彼女を、片桐主任はどうして手放せたんだろう?
不満に思う一方で感謝したくなる自分に心の中で釘を刺す。
望まないはずだろう、と。
「…それでね。電車乗ってるって嘘、私は知らないってごまかしちゃったんだけど」
「大丈夫ですよ。
俺には聞いてこないでしょう。
女の攻撃は女に向きますから」
「…呆れた腹黒ね」
「女の特性を指摘しただけです」
拗ねたように笑う顔から視線を逸らす。
悪者でいようとしても、つい本心を晒してしまいそうな気がした。
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