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だけど、怯えてぎゅっと目を瞑った彼女の顔を見た時、唇を塞ごうとしていた俺の動きは止まった。
一体何やってるんだ、俺は。
フラフラしてるのは俺の方。
諦めると繰り返しながら、いつまでも彼女の周りをウロついてばかりだ。
「……課長なら、片桐主任の身代わりができるんですか?」
課長ならうまくやるだろう。
身代わりから本物になることも。
握り締めていた手を放した。
こんな所を誰かに見られたら、彼女が掴むはずの幸せも逃げてしまう。
「それで楽になれるなら、そうしたらいい」
半ば自分に言い聞かせるように吐き捨てて、背中を向け、そのまま休憩室を出た。
もう二度と、彼女の足を引っ張らない。どんなに心配でも。
自分を殴り付けたいぐらい、一人相撲が情けなかった。
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