1351人が本棚に入れています
本棚に追加
***
その日は最近続いていた現地待ちの案件もないので、就業規則通り早めの退社となった。
とはいえ、普段通り持ち帰り残業は鞄にぎっしり詰まってるけど。
こんな憂鬱な時は仕事に没頭するか酔っ払うに限る。
だけど中野の誘いは勘弁だった。
「篠田、飲みに行かね?」
「あー、今晩はダメだな」
別に用はないけど、先週散々な目に遭ったばかりだから当分御免だ。
すると中野はがっくりと肩を落とした。
「相原でも誘うかな…」
「あいつはやめとけよ。新婚だし可哀想だろ」
「可哀想じゃねぇよ。新婚だし」
理屈が真逆だけど中野にはそうなるらしい。
男にもタイプがあって、俺みたいに孤独が好きなのもいれば、中野みたいに孤独にめっぽう弱い奴もいる。
「小椋でも誘えば?」
「あいつ、篠田がいないと来ないだろ」
「途中までなら俺も付き合うよ」
「そうか?!」
萎れた中野が途端に元気になった。
「おーい、小椋ぁ!」
走っていく背中を見送りながら苦笑する。
男って情けない生き物で、失恋の寂しさを埋めるのはやっぱり女の温もりがいいらしい。
それが小椋ってのは、俺には有り得ないけど。
最初のコメントを投稿しよう!