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エレベーターの表示は一階。
上がってくるまで待っていられず、脇の階段を駆け下りる。
エントランスを出ると、外は昨夜のうちに降った雨と今も続く霧雨で濡れていた。
「先輩!」
少し先に先輩の後ろ姿が見えて、早朝だというのに思わず大声で叫んでしまった。
「良かった、間に合って」
数段の段差すらまどろっこしくて飛び降りる。
彼女は傘もささずに歩いていた。
「どうしたんですか?急ぎの用事でも…起こしてくれたらよかったのに」
走ったせいで少し息が切れるけれど、無事に間に合った安堵で俺は喋り続けていた。
「雨降ってるし、とりあえず戻って下さい。後で車で送ります」
そこでようやく気づいた。
足は止めたものの振り向きもせず、まったく反応しない彼女の不自然さに。
「…先輩?」
彼女の肩に手をかける。
「濡れるから早く戻っ…」
「戻らない」
「え?」
鋭い声と同時に、まるで触れられたくないように身体ごと避けて肩の手を外された。
振り向いた彼女の顔は、昨夜の表情は欠片もなく、冷たく強ばっていた。
想像もしていなかった変化についていけず、ただ呆然と彼女を見つめる。
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