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昨夜から今朝までの間に思い当たる理由なんて見当たらない。
ただ眠っていただけだ。
じゃあ、なぜ?
だけど思考を巡らせる間もなく、俺を奈落に突き落とす一言が突き刺さった。
「もう、ここには来ないから」
「待って下さい」
言い終えるなり、くるりと向きを変え歩きだした彼女の腕を咄嗟に掴む。
これまでみたいに黙って見送ることが、今の俺にはどうしてもできなかった。
「何考えてるんですか?
理由も言わずにいきなり」
怒り?絶望?
整理のつかない衝動のまま突っかかる。
彼女の肩を掴んで無理矢理こちらに向かせた。
「じゃあ、なぜ来たんですか?
もう来ないと、それを言うためだったんですか?」
どうしてそんな残酷なことが?
俺に感情がないとでも?
“会いたかった”
俺に夢を見させたあの言葉は、一夜にしてただの地獄行きの言葉になった。
しばしの沈黙が流れた。
いつのまにか霧雨から小雨に変わった雨粒が、彼女の髪に落ちては小さく光って消えていく。
「……そうね」
否定してくれ。
そう願い待っていた俺の耳に、彼女の静かな声が届いた。
「ここに来たのは、それを言うためだったのかもしれない」
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