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息の根を止められたように、しばらく口がきけなかった。
茫然とした後、ようやく自嘲とも怒りともつかない感情が込み上げてきた。
昨夜は、図らずも寝てしまった男への縁切りの餞別だと?
結局、俺達の関係は最初から何も変わっていなかったってことだ。
昨夜すっかり忘れ去っていたあの男の存在を、俺はやっぱり越えられない。
「結局、そういうことですね」
彼女の肩を放した。
今後はもう二度と触れることはないんだろう。
「…どこに行くつもりですか?」
「……家に」
「そうじゃない」
答えをはぐらかす彼女に苛立ち、一番聞きたくないことを尋ねた。
「課長ですか?」
俺は未練がましく否定を望んでいたのかもしれない。
苦し紛れの悪あがきだった。
だけど、返ってきた答えは、俺にとって肯定をはるかに越える残酷なものだった。
「……忘れさせてくれる所に」
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