第5章

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人って、二度死ねるものなんだ。 その前の一撃で十分だったのに。 痛みを通り越して無感覚になった頭で、ぼんやりと考えた。 俺では全然足りないということ。 彼女の口から改めて告げられたら、夢を見る余地は一筋もない。 それでも、泣きたいのか怒鳴りたいのか混沌としながら、今だけはと踏ん張った。 「送っていきます」 俺にできるのはそれぐらい。 車のキーを握り締める。 だけど彼女は目も合わさず、上辺だけの微笑みを浮かべて首を振った。 「大丈夫よ」 歩き始めた彼女を口が勝手に呼び止めた。 「先輩」 そこまで拒絶するなら。 彼女のビニール傘を差し出した。 「…忘れ物です」 なら、欠片の痕跡も残さず消えて欲しい。 昨夜の記憶も、全部。 「ありがとう」 パサリと開いたビニール傘が、しだいに遠ざかっていく。 額に落ちた雨粒が伝い流れるのも拭わず、後ろ姿を見送り続けた。 彼女は絶対に振り返らないと知っていたから。 そしてやっぱり、 彼女は一度も振り返らなかった。
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