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人って、二度死ねるものなんだ。
その前の一撃で十分だったのに。
痛みを通り越して無感覚になった頭で、ぼんやりと考えた。
俺では全然足りないということ。
彼女の口から改めて告げられたら、夢を見る余地は一筋もない。
それでも、泣きたいのか怒鳴りたいのか混沌としながら、今だけはと踏ん張った。
「送っていきます」
俺にできるのはそれぐらい。
車のキーを握り締める。
だけど彼女は目も合わさず、上辺だけの微笑みを浮かべて首を振った。
「大丈夫よ」
歩き始めた彼女を口が勝手に呼び止めた。
「先輩」
そこまで拒絶するなら。
彼女のビニール傘を差し出した。
「…忘れ物です」
なら、欠片の痕跡も残さず消えて欲しい。
昨夜の記憶も、全部。
「ありがとう」
パサリと開いたビニール傘が、しだいに遠ざかっていく。
額に落ちた雨粒が伝い流れるのも拭わず、後ろ姿を見送り続けた。
彼女は絶対に振り返らないと知っていたから。
そしてやっぱり、
彼女は一度も振り返らなかった。
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