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「……おはようございます、片桐主任」
さっさと役目を果たして去ろうと、先輩には目を向けず挨拶する。
「ああ篠田君、久しぶり。
今、米州部忙しいんだって?」
「羽鳥課長が探してましたよ、片桐主任を」
片桐主任には申し訳ないけど、世間話をする気分ではなかった。
「え、本当?行かないと」
でも彼は俺の素っ気ない態度を気にする風もなく、慌てて腰を上げた。
これで用は済んだし、俺も彼に続いて戻るはずだったのに、出口際で振り向いた彼と先輩のやり取りを聞く羽目になった。
「そうだ。今晩、空いてる?
経企室の飲み会があるんだけど」
「ああ…今晩はダメなの」
「そっか。また声かけるよ。
じゃ、後でね。
篠田君、ありがとう」
彼の足音が遠ざかると、休憩室に沈黙が広がっていく。
“今晩はダメ”
課長と約束でもしたのだろうか。
でも、視界の隅で先輩が気まずそうに身じろぎしたのを見て、掻き回したい衝動をかろうじて抑えた。
「…篠田君。
あの…小椋さんのことだけど」
けれど、彼女が口を開いた。
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