第5章

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「課長と今夜会うんですか?」 俺が一歩近づくと、彼女は俺を睨みつけながらも一歩後ずさった。 「片桐主任のせいで、あの夜あんなに泣いて違う男に抱かれたくせに」 「大きな声で言わないで」 別に大きな声なんか出してない。 隠滅したいことを言われたから耳が痛いだけだろう。 「それに今晩は違うわ。 相原さん達と同期会だから」 一歩、もう一歩。 彼女はもう目の前だ。 「課長に何を言われたんですか?」 課長を本当に好きになれるなら、それでいいと思う。 だけど身代わりでしかないなら、今までと同じことの繰り返しだ。 見送る俺も、それじゃ終わりにできない。 「言えないようなことを?」 彼女の唇に触れ、指でなぞった。 甦るのはキスの甘い感触。 「もう味見させたんですか? …課長にも」 彼女を忘れられずに苦しんだ男は多いはずだ。 彼女はそれを分かっているのだろうか。
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