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先輩は正面で繰り広げられているそんなバカな攻防には気づいていないか興味もないのだろう、グラスを回しながら少し考えるように答えた。
「えーと…パルフェ・タムールっていうらしいの」
「へぇ、完璧な愛、かぁ…」
中野の声が数段階トーンダウンした。
まずい。中野の失恋スイッチはふとしたきっかけで簡単にオンになるのだ。
「…俺、まだダメかもしんねぇ」
「ヤダ!また中野君の鬱々が始まっちゃう」
「うるせぇ」
「ウダウダ飲んでるぐらいなら、さっさと電話すればいいじゃん」
「しない」
中野は両手で顔をゴシゴシとこすって、酒を一気に流し込んだ。
もう完全にいつものパターンだ。
「小椋みたいなエゴの塊には完璧な愛なんて一生分かんねぇよ」
だけど、突っ伏してしまった中野の次の言葉に、俺は胸を突かれる思いがした。
「本当に好きならなぁ、相手が望むようにさせてやりたいって思うもんなんだよ…」
「そんなの完璧な愛じゃなくて、ただのヘタレじゃない?
ねえ、篠田君」
「いや…俺は分かるけど」
何度目かにかけられた手を強めに払いながら、無意識に本心を吐露する言葉を口にしていた。
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