1333人が本棚に入れています
本棚に追加
「人それぞれだろうけどね。相手にもよるだろうし」
口にしてはいけない思いを、せめて中野を身代わりにして言葉に残した。
「中野は相手にとって何が幸せかを最優先して別れた訳だろ」
状況を利用すれば、課長との関係に楔を打ち込むことも出来たかもしれない。
だけどずっと彼女の幸せを願ってきたから、それはできなかった。
「強引に自分の物にしても、どうしても与えてやれないものがあるなら、手に入れないのも愛じゃないの?」
強く願っても、俺では叶えてやれないものがある。
彼女は恋をして、
幸せになるべき人だから。
「自分の気持ちのまま押して苦しめるより、手放して自由にしてやりたいと。
そういうことだろ、中野」
彼女がようやく手にする幸せに濁りを残したくない。
俺と課長がこれからも同僚としてやっていくことを思えば、俺の感情もあの夜も、存在してはいけないのだ。
だから俺はろくでなしのまま、あの夜を単なる過ちとして彼女が記憶から消すことを望む。
最初のコメントを投稿しよう!