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彼女に気づかれてはいけないのに、少し喋りすぎたかもしれない。
まずいかなと口をつぐんだ時、シンと静まったテーブルに、中野の情けない声が響いた。
「その通りなんだけどさぁ篠田」
突っ伏した中野の声の後半はぐにゃぐにゃと涙声になった。
「篠田のせいで泣けてきたぁ…」
こいつは面倒臭いけど、いつも無意識にいい仕事する。
吹きそうになった口にグラスを当ててごまかした。
こういう所が憎めなくて、ついつい付き合ってしまうのだ。
「ああもう最悪!」
いつも通り、小椋の罵声が飛ぶ。
俺の腕にかけられていた手は、今はイライラとテーブルを叩くのに忙しそうだ。
「篠田君としっぽり飲むはずだったのに、どうしていつもこうなるのよ!」
「まあまあ」
ずっと黙っていた先輩が見かねたように中野を庇うと、小椋が八つ当たりした。
「先輩!このウジウジになんか言ってやって下さいよ!」
「何かって言われても…」
先輩は突然ふられて困惑顔で口ごもっていたけれど、中野に向かって優しく声をかけた。
「月並みなことしか言えないけど、いつか絶対いい思い出になる日が来るから。私がそうだから」
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