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「あの、ごめんね」
延々と続きそうな口喧嘩に愛想が尽きたのか、先輩が控えめに割って入った。
「私はそろそろ失礼するわね。
皆さんは楽しんで」
こんな騒ぎでは先輩が帰りたがるのも当然だ。
だけど、間近で顔を見て声を聞くのは多分最後だと思うと名残惜しかった。
「えー!もっと女王様と飲みたかったのに」
「だって先輩、旅行の準備とかあるから忙しいんですよね」
先輩に帰って欲しいからだろう、小椋がここぞとばかりに旅行の噂を持ち出すと、先輩は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「まだ決まった訳じゃないのよ」
「先輩またまた、今更なに隠しちゃってんですかぁ」
「俺、駅まで送っていきます」
突如込み上げた衝動で、会話を遮断するように思わず立ち上がっていた。
偶然が引き合わせたこの場が終わってしまえば、彼女と俺はまったく接点のない日常に戻り、じきに彼女は遠い所に行ってしまう。
あの雨の朝を最後にしたくなかった。
一言だけ、彼女に祝福の言葉を贈りたかった。
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