第6章

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「あの、ごめんね」 延々と続きそうな口喧嘩に愛想が尽きたのか、先輩が控えめに割って入った。 「私はそろそろ失礼するわね。 皆さんは楽しんで」 こんな騒ぎでは先輩が帰りたがるのも当然だ。 だけど、間近で顔を見て声を聞くのは多分最後だと思うと名残惜しかった。 「えー!もっと女王様と飲みたかったのに」 「だって先輩、旅行の準備とかあるから忙しいんですよね」 先輩に帰って欲しいからだろう、小椋がここぞとばかりに旅行の噂を持ち出すと、先輩は恥ずかしそうに顔を赤らめた。 「まだ決まった訳じゃないのよ」 「先輩またまた、今更なに隠しちゃってんですかぁ」 「俺、駅まで送っていきます」 突如込み上げた衝動で、会話を遮断するように思わず立ち上がっていた。 偶然が引き合わせたこの場が終わってしまえば、彼女と俺はまったく接点のない日常に戻り、じきに彼女は遠い所に行ってしまう。 あの雨の朝を最後にしたくなかった。 一言だけ、彼女に祝福の言葉を贈りたかった。
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