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そんな調子で邪魔されながら歩くうち、とうとう大通りが見えてきた。
「…先輩」
もうこれが最後のチャンスだ。
中野と小椋の一瞬の隙を突いて足を止め、先輩を振り返る。
そこは会社の通用門に繋がる横道との辻だった。
先輩は忘れただろう。
ここでリップを塗って、
嬉しそうに笑ってくれたこと。
「課長から聞きました」
「えっ?」
思慕も未練も、
この言葉を最後に全て捨てよう。
「幸せになって下さい。
祈ってます」
何度も嫌味で苛めてごめん。
これが俺から贈る、本当の言葉。
「先輩は、幸せになるべき人だから」
一番綺麗で、一番健気な人だった。
「篠田ぁ!やっぱお前んちダメ?
誰か呼び出してさ」
やはり予想を裏切らないすごいタイミングで割り込んでくる中野の大声に向きを変え、歩き出す。
「たまには中野んちは?」
「えっ、俺んち汚いし」
「やだ、そんな汚部屋!篠田君ちがいい」
「なんだ、汚部屋って!」
さよなら、先輩。
中野と小椋の騒ぎに混じりながら、振り返らずに歩いた。
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