終章

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ところが、そんな彼女を抱きしめてその気になりかけた俺に肩透かしを食らわすように、先輩は唇を離してヒラリと本題に戻った。 「じゃあ、このポーチは誰の?」 「それが…俺にもさっぱり……」 このど派手なハート、どこかで見た気がするのは気のせいか? それも一度や二度じゃなく。 「セフレの誰かのかしらね」 「せふっ…」 「ああ、篠田の場合は一夜限りだったわよね。覚えていられないぐらいなんだ?すごいわね」 「違います違います!そんな、覚えてられないほどでは…」 嗚呼。また失言だ。 否定するポイントが違うだろう。 「どうして彼女がいるのに他の女と寝るの?」 「それは……」 潜在的に先輩を求めてたからだって、知ってるじゃないか。 「私とも寝たしね」 「でも先輩だけはここに連れて来ました」 我ながらいったい何の主張だ。 「先輩だけは違うんです」 全然弁明の方向が違うと気づきながら、進むしかない情けなさったらない。 「じゃあこのポーチは何?」 「知りませんよ!ほんっとに、まったく、身に覚えがないんです」 「……」 「本当に!」 説得力ゼロ、繰り返すのみ。
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