終章

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「怜のことは吹っ切れてるから。 本当にもう過去になってるの」 「そう言いながら泣いてるじゃないですか」 「違うのよ!怜のことで泣いてるんじゃないの」 「じゃあ、なぜ?」 「課長と行けなかった。 どうしても。だって…」 彼女は俺から目を逸らして口ごもった。 あんなに泣いて苦しんで、ようやく掴んだ幸せじゃなかったのか。 会えた嬉しさより、前に進めない彼女への歯痒さの方が強かった。 「課長が片桐主任を忘れさせてくれたんでしょう?」 あの朝も、一週間前のバーでもはっきり言い切っていたのに。 「違うの。課長じゃない。 篠田よ。篠田が怜を消したの」 世界がひっくり返ったように、目の前が一瞬揺れた気がした。 俺が小椋に反応せず、先輩が戸川にまったく反応しなかったように、人には好みってものがある。 俺は片桐主任や課長とはまったく違うタイプだ。 ただ目を見開く俺に、先輩は弱々しく首を振った。 「ううん、もう怜は関係ない。 私の中には篠田しかいないの。 いつからか分からないけど」
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