終章

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「じゃあなぜ課長と?」 “会いたかった” そう言われた翌朝に地獄に落ちたあの朝が過る。 「だって…、篠田には忘れられない人がいるって聞いたからよ。 だから誰ともきちんと付き合わないって」 「えっ?」 課長とのいきさつが語られるのかと思いきや、彼女から返ってきたのは思いもよらない言葉だった。 俺自身さえ自覚していなかった先輩への思いは、外にダダ漏れだったのだろうか。 「ち……違うの?」 先輩は不安気なか細い声でそう尋ねてから、返事も待たずにぎゅっと目を瞑り一気に叫んだ。 「だから諦めようと思ったの! 好きになんかなりたくなかった。 課長と遠い所に行けば篠田を忘れられると思った。 でも、どうしても諦められなかったのよ!」 片足はヒール、片足は裸足の傾いだ肩で、先輩は迷子みたいに頼りなくポロポロと泣いていた。 「他の誰かじゃ駄目だったの。 篠田でないと」 もう先輩の一時の迷いだろうが何だろうが、そんなことはどうでも構わなくなった。 何度地獄に突き落とされることになっても、俺は先輩に触れずにはいられないんだから。
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