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「……知佐って誰?」
「……元カノです」
「……可愛い名前ね」
「…すみません」
否定する訳にもいかず何となく謝ったのがまずかったらしく、先輩の目が余計につり上がった。
でも俺は先輩みたいに真っ最中に間違えて呼んだりしてないのに。
……とは言えない。
「よく来てたの?ここに」
「いいえ。ほとんど連れて来たことはないです。数えるほどしか」
先輩は俺の首に腕を回して、じっと覗きこんできた。
怒り顔なのに、彼女の目は少し揺れている。
「ねえ…もし私が篠田のところに戻って来なかったら…」
彼女はそこで口をつぐみ、少し考えてから首を振って微笑んだ。
「何でもない」
「何ですか?気になります」
「いいの」
「…先輩がアメリカに行ってしまったとしても、きっと俺はずっと好きでいるんだと思います。過去の誰かに戻ることはないです」
彼女が引っ込めた質問の見当をつけて答えると、彼女は嬉しそうに笑って柔らかな唇を重ねてきた。
「……もう昔の彼女の名前、言ったりしないでね」
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