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ボタンを押すと、自販機は騒々しい音を立てて一枚一枚、ゆっくりとおつりを吐き出し始めた。
それを見ていると、いつかの日、ここで先輩がおつりを床にぶちまけたことを懐かしく思い出した。
「しっかし不味いな…」
コーヒーぐらいじゃ、なかなか後味は取れなかった。
後から気づいたけど、それは激マズで有名な某国の菓子。
口に入れる前にちゃんと見なきゃ、篠田君。
課長のふざけた声が聞こえるようで、憎めない人だよなと苦笑する。
残りのコーヒーを一気飲みして缶をゴミ箱に放り込み、大部屋に戻りかけてふと窓の外を見た。
外はもうとっぷりと日が暮れて、街のネオンが瞬き始めている。
窓に面した奥の長椅子に腰を下ろし、ぼんやりと夜空を見上げた。
先輩は今ごろ空の上だ。
もう会えなくなる訳じゃない。
だけど、数ヶ月先にはもう本当に手の届かない人になるんだ。
それでいいんだと一週間前のあの路地で区切りをつけたはずなのに、心は苦しいままだった。
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