終章

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忘れられるはずがないことは自分でも分かっていた。 本気にはならないなんて言い訳をしながら、本当はもうとっくに手遅れだったんだから。 唯一本気になった相手に、一度も好きだと伝えることはなかった。 たぶんこの先、他の誰にもその言葉を告げることはないだろう。 以前のように適当に誰かと付き合うことも、求められるままその場しのぎの言葉を口にすることも、もうできそうになかった。 「おめでとう、先輩」 触れさえしなければ、ここまで辛くならなかったのに。 「駄目だ……」 眼鏡を外して腕で顔を覆う。 ロンドンで戸川が泣いた話を相原から聞いた時は笑ったのに、俺がこんな羽目になるなんて。
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