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そこに立っていたのは先輩だった。
だけど、さっきまで俺が思い描いていた先輩の図──
ビジネスクラスのゆったりしたシートで、優雅にワイングラスを揺らしながら隣の課長と微笑み合う先輩──とは全く違っていた。
まるで全速力で走った後のように乱れた髪と服。
何度見たことか、泣き腫らしてマスカラが点々とこびりついた顔。
ついでに足元は靴擦れでもしたのか、片方のヒールの踵を踏んで引きずっている。
「先輩……?」
それでも確かに先輩だ。
だけど、なぜここに?
先輩は何も言わず、涙が残る大きな目を見開いて、唇をわずかに震わせながら俺をじっと見つめた。
「アメリカは?課長は?今日の午後便で出発でしたよね?
何があったんですか、その顔」
突如動き始めた口からは矢継ぎ早に質問ばかりが飛び出してくる。
とにかく驚きすぎてさっきまでの感傷は吹き飛び、あまりに唐突なこの事態への疑問しか浮かばなかった。
「あの……ね」
ようやく先輩はそれだけ言うと、目から涙をぽろぽろ溢した。
そこで、はたと思い至る。
先輩が俺の所に来るのは辛い時だ。
「その顔……まさか、課長にも振られたんですか!」
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