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「にも、って何よ」
俺の言葉尻が気に障ったらしく、先輩は顔をぐいっと拭うと、喉が詰まったような妙なしわがれ声で叫んだ。
「全部、篠田のせいなんだから」
やっぱり課長と破局したのか。
俺が送別会で課長に余計なことを言ったからか?
けれど疑問を挟む間もなく、先輩はまくし立てた。
「私が篠田を忘れられないから!
私が篠田でないと駄目だから!」
彼女はそこで突如黙り込んだ。
いきなり起こされ、いきなり予想外場面に投下されて混乱する頭で、機関銃のように飛んできた言葉を整理する。
すべて見通している課長が土壇場で彼女を振るはずがない。
なら、彼女がこの五年間に繰り返してきたいつものパターンだ。
「つまり、片桐主任を完全に吹っ切れてなかったってことですね」
さっきのは言い間違いか、そうでなければ聞き間違いってことで。
手にしたままだった眼鏡を装着しながら宥めるように言うと、彼女はいきり立って床を踏み鳴らした。
「違うわよ。全然違う。分かってよ」
先輩の足から引っ掛けていただけのヒールが脱げて転がったけれど、意に介する様子もない。
ここまで取り乱した先輩は見たことがなかった。
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