「ギリッ」と「カツッ」

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「ギリッ」と「カツッ」

『ギリギリッ』  男はふたつ歯軋りをした。 『カツカツッ』  女はヒールの靴音を男の目の前で止めた。 「おい、譲れ… さもないと…」  男は軽く笑みを零し、女に軽く威嚇の視線を投げかけた。 「そう思うのなら、あなたがそれを実行しなさいよ。無神経な男ね、笑えてきちゃうわ」  この男女は今、柚子蓮橋のほぼ中央にいる。橋の名の通り、この橋の道を譲ることはできないのだ。それは物理的に不可能なのだ。深い谷に、一本の太い木だけで架けられた橋なのだ。どちらから下がり、元来た道に戻るしか手はない。この橋はこういった軽い争い事が多くあり、この橋を決闘橋と呼ぶ者もいる。 「ではこうするか。オレがお前に抱き付き、お前を越えていこう」  男は嬉しそうな顔を見せ提案した。同然女は男の言葉を鼻で笑った。 「そんな汚い手で触れて欲しくないわ。無神経な男… 思った通り、やっぱり最低ね…」  女も男を挑発する。まさに不毛な状態だと誰もが思うであろう。  男は実力行使に出た。女を襲う身振り手振りで女を睨み付けた。女は半歩下がった。本当に襲ってくるとは思わなかったようだ。 「…何とでも言えよ… オレは下がらずここを通りたいだけだ」 「この獣っ!」  女は軽く叫び、体操選手よろしく軽く飛び上がり男の頭に片手を乗せて跳馬のようにして先へと進んだ。 「ほう、凄いじゃないか、感心したぞ。 …引き分け、だな…」  男はそれほど残念そうな顔を見せなかった。逆にかなりニヤ付いている。 「なによ… なにがそんなに面白いのよっ!」  女は冷静さを失っている。男は言った。 「お前、そのパンツ、そろそろ洗えよ。茶色い線が二本入っているぞ」  男は高らかに笑い声を残し橋を渡り切り去って行った。  女は屈辱の余り、その間にペタンと腰を落とした。  柚子蓮橋での決闘は引き分けに終わったが、精神的争いでは女は負けたようだ。 「スカートにするんじゃなかったわ…」  女は自分の行動の愚かさを恥じた。だが、パンツを履き替える気はないようだ。
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