桜が告げるもの

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 瞬間、言葉の意味が分からなかった。「エイヨウシッチョウ」を「栄養失調」という単語に結び付けるまでに数秒かかって、さらにそこから今の状況を考える。沈黙が重かったのか、さっきまでとは違い今にも笑い出しそうな加奈が顔を覗き込むように見つめてくる。 「双葉、もしかして心配してくれたの?」 「倒れて入院したって」 「うん、それは本当。いやー恨詰めすぎちゃってなぁんにも食べてなかったんだよね。食料の買い置きもなくなってて、買い物に出ようとしたら寮の廊下で倒れちゃって。見つけてくれた子が119番して、昨日の夜からここにいる」 「それだけかよっ」  大きい声が出そうになり、病院だということを思い出す。どっと力が抜けてついつい手を膝についてしまった。「まさかそんなに心配してくれるなんてね~」と、笑いながら言う加奈を睨みつつ、ベッド横のパイプ椅子に腰を下ろした。 「じゃあ最初のあれは」  もうだいたいの予想はついているけれど一応確認すると、加奈はその通りだと言うように頷く。 「そ、いつものやつだよ」  いつものやつ。それは創作のための演技だ。小説家を目指している加奈は、時折即興でその場に応じた演技を始めるのだ。頭の中に浮かんだシーンを具体的に演じることで、その物語をより深く考えられるのだという。加奈の小説家という夢を唯一知り、同じ夢を抱く俺はそれによく付き合っているわけだが、今回ばかりは演技だと思っていなかったので、何もうまくつなげることができなかった。     
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