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「書きたいものが決まってればいいけど、書きたい物探しの最中じゃねぇ。締切前に見つかったとしても、もうそろそろ次回用にした方がいい頃だよね」
「そういうものか?」
「一応経験則かな。一番短期で書いた高校の時でももう書いてた頃だからね」
そう言われてしまえば、一次の通過どころか去年は書ききることすらできなかった俺からは何とも言うことができない。
「それにしても、桜咲いてたんだねぇ」
「いや、先週にはもう咲いてたけどな」
いったいいつから外に出ていなかったのだろう。それだけ没頭していたのか、あるいはそれこそ桜を見たくなかったのか。
『桜を見ると、今年も締切が近いんだなって思うよ』
以前加奈が言っていた言葉が、ふいに思い出される。あの時は夏で、緑の葉に覆われた桜の木を見ながらそんなことを言っていた。綺麗、綺麗とみんなが待ちわびる桜も、加奈からすれば違って見えるのかもしれない。今年みたいにうまくいっていなければ、それこそ死刑宣告にだって等しいわけだ。桜が散る頃には締切を迎える。逆に桜が咲く前ならまだ時間があると思えるだろう。まぁ加奈が見ていなくても桜は咲くし、いつかは満開を迎えて散っていくのだけど。その情景を見たくないという思いは何となくわかる。
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