女の仕事

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 夕闇の到来と共に宴はお開きとなった。  一人庭に残った弥生は、重箱の中から余りものを小皿に集め、遅い昼食を手早く済ませた。後片付けに取りかかるべく、立ち上がろうとした時、何者かが隣に腰を下ろした。晋一郎であった。  晋一郎は弥生よりも三つ年上。堂々たる体躯の、優しい顔立ちをした青年である。二人は見合いを通じて知り合い、交際を始め、婚約するに至った。弥生も彼女の両親も、彼の物腰が穏やかなところに好感を抱いていた。 「今日の弥生さんは、普段にも増して働き者でしたね」  口元に柔和な微笑を湛え、婚約者の目を見つめながら晋一郎は述べた。 「ええ。皆が気持ちよく過ごすためには、誰かが献身的に働かなければなりませんから」  静かに答え、髪の毛を耳にかける。弥生が照れた時に決まってする仕草である。次に発せられるに違いない晋一郎の言葉を踏まえての仕草でもあったのだが、彼は予想外の言葉を口にした。 「そうですね。でも、弥生さん一人がその役割を担う必要はなかった」  息を呑んで晋一郎の顔を見返す。口元の微笑は健在だが、心持ち眉をひそめていた。 「弥生さん、あなたはどうも、一人で頑張りすぎるようです。今日だって、お母様がおっしゃっていたでしょう。僕と二人で楽しみなさいと。弥生さんはなぜ、お母様の言葉に甘えなかったのですか? 僕は客の立場だったので、差し出がましい真似は控えましたが、そうでなければ、きっと弥生さんに苦言を呈していたでしょう。いいですか、弥生さん。男は仕事、女は家事。そんな旧い考え方が、僕は大嫌いだ」  弥生の肩が震えた。晋一郎は喋り続ける。 「結婚したら、僕も家事を手伝おうと思っている。弥生さんも、仕事がしたいのであれば外に出るべきだ。個人の意志を尊重し、よいものも、悪いものも、二人で分かち合う。そんな夫婦でありたいと僕は思っている」
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