1人が本棚に入れています
本棚に追加
8.思惑の立体交叉
[こちら、ラウンド。広島市より東に展開した敵部隊の排除が完了した]
無線を通じて、零治の声が響く。
「こちら"エニアック" ──現在、広島電鉄西広島駅前。敵部隊の排除を完了」
返事の声は、やけに幼い。だが、その声の雰囲気は無機質な機械を思わせる。
血のようなワインレッドと黒に塗装されたジャグリオンが立っている場所も、その異様さを示すかのようだ。
彼がいる場所はバスの上──しかも、黒く焦げて穴が空いた運転席の真上にいる。
[ジョニーマクレーン、ドリルサージェント、そちらの様子はどうですか?]
そして周りには、暴走族と不良たちの死屍累々とした光景が広がっていた。
機体の左腕から伸びる剣状の物体からバチバチと火花が飛び、時折、バスの屋根と剣の間に、稲妻の帯が走る。
凄まじい温度のアーク放電──それを屋根の上から突き刺されては、運転している者はひとたまりも無かった事だろう。
[こちら、ドリルサージェント。現在位置、牛田新町。広島市北部に向かう敵を撃破]
[ジョニーマクレーンよりラウンドへ。川沿いの学校を襲っていた敵部隊を撃退──位置は、エニアックの居場所から橋二つ南だ]
ノイズ交じりの声を聞きながら、エニアックはペダルを踏む。
たちまち、機体はバスの屋根から、市内電車が通る線路の上へと着地し、ガシャンと大きな音を立てる。
[了解。各機、敵部隊の動きは今の所見られない。機体は大丈夫?]
「奇襲したから損傷は無い。ブレードを使っただけ」
[こちらも問題無い。火器類と弾薬は敵機から現地調達させてもらった]
[二人とも、少しは民間人の心配をしろよ。──ここは何て学校だ?……コウゴ、で間違い無いか?……西区川沿いにあるコウゴ中学校だ、敵の攻撃で重傷者が出ている。メディックと医療物資をこちらに回してくれ、大至急だ]
[ラウンドよりジョニーマクレーンへ。了解しました、待機中の医療支援隊をそちらに向かわせます]
緊迫したやり取りを聞きながら、エニアックは市電のレールと橋の向こうに見える、川の対岸の街並みを睨む。
敵はまたやって来る、だが──。彼はそう思いながらスイッチを操作し、左腕に繋がったアーク放電ブレードを格納する。
続けざまに彼の脳裏に浮かんだ言葉はこうだ。
「──誰であろうと、私を越える事など不可能だ」
あるゲームのキャラの台詞を、小声で真似る。
最初のコメントを投稿しよう!