1人が本棚に入れています
本棚に追加
モニターの前にいる男の後ろに、二つの列……右に三人、左に三人が、縦に並んでいる。
「じゃが、民がそれを自覚する前にもちますかねぇ……この日の本が」
「……」
左列の先頭からの声は、老いた婦人のそれである。
彼女が思案しながら語った言葉を聞き、モニターの前の男は振り返る。
「皆の者も聞きなさい。今こそ、私らが先に立ち、民を " 光輝の道 " に導かなければならぬ時ですよ。──日の本を汚す悪魔どもから、この神の国と民を守らねばなりません。一人でも多くの──」
「母よ、勝手に仕切るな」
男は老婦人の言葉を遮ると、息を整える。
「──我らは " 黎明の機士団 " ──神国を汚す悪魔どもから民を救い、神へと至る光輝の道へ導く事が、我らの務め……」
「……」
その場にいる全ての者へ、言い聞かせるように、男は強い口調で語る。
「皆の者。──黎明の機士団は、これより悪魔を討つべく決起する!」
列を成している者達は、力強く語られる言葉に、静かに耳を傾けた。
「黎明の機士の長、夕凪 長信(ゆうなぎ おさのぶ)が命ず!──時は来たれり。明日、我らの名たる黎明の刻をもって集結せよ!」
「「御意のままに!」」
その返事から間もなく扉が開き、光が部屋に差し込む。
彼らは、上着も袴も真っ白の、古風な白装束を身に着け、さらに白い烏帽子を被っていた……。
「!」
会長室の部屋の中、沢村は胸から背中に疼くような痛みを感じ、手を止める。
「……」
そっと、痛みが走る胸に手を当て、沢村は静かに息を止めた。
彼はそのまま痛みが和らぐのを待つと──
「古傷が疼いたか……」
額に薄く浮かんだ汗を、不快に感じる。
しかしながら、今は沢村財閥の会長としての仕事の最中……今、手を止めるわけにはいかなかった。
目の前のパソコンには、傘下の子会社やグループ会社からの業務報告、進行中のプロジェクトの進捗や経過報告などが、次々と流れてきている。
その時──
傍にある有線の電話が、電子のベル音を響かせた。
沢村は落ち着き払った様子で、受話器を手に取る。
[失礼致します会長。先程、桜小路財団より連絡が入りました]
「ふむ……それで、何と言っている?」
[風宮財閥代表を招き、桜小路財団にて早急に会談を行いたいとの事です。どう致しましょうか?]
最初のコメントを投稿しよう!