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「解った……出席すると伝えてくれ。スケジュールの調整を行う。桜小路から言ってくる程だ、重要度は最優先で頼む」
[承りました]
やり取りを終え、沢村は受話器を下ろす。
考えが穏健かつ慎重な桜小路が、こちらに連絡してきたという事は──沢村はそう考えつつ、国会で起きているであろう出来事に予想をつける。
「恐らくは──。管山 一郎め、例の審議を拒否したな……」
これは、先に手を打つ必要があるか──。
沢村はそう考えると、デスクの引き出しから私用のノートパソコンを取り出す。
彼は素早い手つきで、まずは動画サイトにて国会中継の最新ログを確認すると、幾つかの連絡先を開き、そこに指示を送っていった……。
──光と電脳の中から、電波に乗って飛来した緊急連絡。
沢村が送って来た指示は、ジャミングで通信障害を受けている轟震の元に、何とか届く事ができた。
「──緊急、シリウスからだ」
中央戦闘指揮所──CICの中にいる零治は、いち早く受信を知らせる電子音に気が付くと、端末に手を触れる。
一九八十年代、東西冷戦も末期の頃に建造された轟震は、アメリカ合衆国と、当時のソビエト社会主義共和国連邦──現在のロシアとの間に起きるであろう核戦争に備える為、それ自体が強力な通信指揮所としての機能を持っていた──。
「桜小路財団が提案した政府への働きかけは失敗。民主人民党の審議拒否により、自衛隊への治安出動命令は下りない事が確実となった」
冒頭の一文を読み上げた時点で、零治は少し頭が重くなった気がした。
それこそ極端な表現になるかもしれないが、魔王なり怪獣なり悪党が暴れていて、勇者やヒーローが出なければならない場面で、肝心の主役が出てこない。
本末転倒な状況だった──。
「この事態に対処する為、J.C.M.D.Fの戦力増強を指示し、轟震隊への合流を命じた。組織設立と運用の目的からすれば不本意であるが、自衛隊の代わりに本格的な戦闘活動を行う事を考慮しなければならない状況だ。轟震隊は増援が到着するまで、可能な限り、新島組の活動を阻止する事。──厳しい状況だ、こちらも可能な限り対処を急ぐ」
今、彼らが置かれた状況は、裏からこっそりとヒーローを支えるモブキャラやサブキャラが、表立って戦わなければならなくなった……そんな状況なのだ。
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