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母と娘は、互いに眼光を飛ばすと、のしのしと別の場所へ移動を始めた。
隆義は痛む頭を依然として冷やしながら、二人を見送る。
やがて、二人は廊下の向こうへと姿を消し──
「何でウチの家系の女性は、あんなに気が強いのばっかりなんだ……母さんも姉ちゃんも婆ちゃんも……」
隆義は天井を見上げて、ぼやいた。
「とにかく──たかよしが、ちゃんとからだにもどれてあんしんしたけぇ……」
声がしたのは、隆義の頭上からだ。
隆義以外には誰にも見えない、幽霊の少女……きゅーちゃんの声。
「まだ……痛む……」
「むー……」
心配したきゅーちゃんは、隆義の頭に手を触れる。
「い、いたいのいたいの、とんでけー!」
せめてもの、精一杯のおまじない……。
だが、勿論効果は無い。
「仕方ありません、そのまま患部を冷やし続けるしかないですよ──」
「ん、あぁ……」
隣にいるあいちゃんに話しかけられ、隆義はそっけない返事を返す。
きゅーちゃんの方に視線が集中していたので、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが……。
「とりあえず、私から状況を報告しておきます。──貴方が乗って来たシ式が、隣にある学院に置いてあります。私が乗って来たのですが……」
「……シ式を? 君が?」
「ホバーユニットの試運転が終わっています。性能に問題はありませんでしたので、活用してください」
あいちゃんはそれだけ言うと、椅子から立ち上がった。
そして、菊花と日向の後を追うように廊下を進んで行く──。
「たかよし──」
「……行こうか」
まだ痛む頭に氷枕を当てたまま、隆義も椅子から立ち上がる。
それを見て、背の高い看護士……妙子は──
「隆義君、まだ安静にしてた方が良いわ……」
少し困惑する様子を見せた。
「海田の陸自駐屯地に用事があります。……市内がどうなってるか、伝えないと」
「坊主、それなら心配するな。──代わりに行ってきたぜ?」
セーラー服の一団の後ろから、ジジイの声。
声の主は紛れもなく、工学博士・赤葉 義辰だ。
「工学博士の……」
「本名を言ってなかったんで、改めて名乗っておくぜ。赤葉 義辰だ──」
「心の保護者のお爺さんじゃない。ってか、ここ禁煙よ!」
奈緒は義辰に対し、傍にある[No smoking(禁煙)]と書かれた注意書きを指差しながら言う。
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