8.思惑の立体交叉

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 母と娘は、互いに眼光を飛ばすと、のしのしと別の場所へ移動を始めた。  隆義は痛む頭を依然として冷やしながら、二人を見送る。  やがて、二人は廊下の向こうへと姿を消し── 「何でウチの家系の女性は、あんなに気が強いのばっかりなんだ……母さんも姉ちゃんも婆ちゃんも……」  隆義は天井を見上げて、ぼやいた。 「とにかく──たかよしが、ちゃんとからだにもどれてあんしんしたけぇ……」  声がしたのは、隆義の頭上からだ。  隆義以外には誰にも見えない、幽霊の少女……きゅーちゃんの声。 「まだ……痛む……」 「むー……」  心配したきゅーちゃんは、隆義の頭に手を触れる。 「い、いたいのいたいの、とんでけー!」  せめてもの、精一杯のおまじない……。  だが、勿論効果は無い。 「仕方ありません、そのまま患部を冷やし続けるしかないですよ──」 「ん、あぁ……」  隣にいるあいちゃんに話しかけられ、隆義はそっけない返事を返す。  きゅーちゃんの方に視線が集中していたので、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが……。 「とりあえず、私から状況を報告しておきます。──貴方が乗って来たシ式が、隣にある学院に置いてあります。私が乗って来たのですが……」 「……シ式を? 君が?」 「ホバーユニットの試運転が終わっています。性能に問題はありませんでしたので、活用してください」  あいちゃんはそれだけ言うと、椅子から立ち上がった。  そして、菊花と日向の後を追うように廊下を進んで行く──。 「たかよし──」 「……行こうか」  まだ痛む頭に氷枕を当てたまま、隆義も椅子から立ち上がる。  それを見て、背の高い看護士……妙子は── 「隆義君、まだ安静にしてた方が良いわ……」  少し困惑する様子を見せた。 「海田の陸自駐屯地に用事があります。……市内がどうなってるか、伝えないと」 「坊主、それなら心配するな。──代わりに行ってきたぜ?」  セーラー服の一団の後ろから、ジジイの声。  声の主は紛れもなく、工学博士・赤葉 義辰だ。 「工学博士の……」 「本名を言ってなかったんで、改めて名乗っておくぜ。赤葉 義辰だ──」 「心の保護者のお爺さんじゃない。ってか、ここ禁煙よ!」  奈緒は義辰に対し、傍にある[No smoking(禁煙)]と書かれた注意書きを指差しながら言う。
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