1人が本棚に入れています
本棚に追加
妙子が額を手で押さえ、またかという表情をすると、一同は妙子の後ろへと移動を始めた。
「じゃあ──赤葉博士、まずそのタバコの火を消してくれよ。……駐屯地にはいつ?」
「隣の学校を襲った連中が逃げ帰ったすぐ後だ。駐屯地は予備と即応の自衛官を集めて、命令さえありゃいつでも出られるように準備してたぜ?」
隆義に聞かれ、ジジイこと義辰は携帯灰皿を出し、火を消しながら言う。
「──じゃあ、その命令は?」
「国会中継は見てるか?」
「いや……気絶してたし、見てない」
「──民主人民党・管山一郎内閣総理大臣は、自由民政党・斎藤政久議員との、新島組による広島市占拠事件に関する質疑中、自衛隊の治安出動について触れられたすぐ直後、場内で与野党が口論する中、以後の答弁・審議を拒否し、民主人民党全ての議員を引き連れ議場より退室……だそうだ。」
「えぇ? つまりそれって──」
「話を無視して逃げちまったんだよ……」
「チッ……」
そこまで聞いた直後、隆義は舌打ちした。
嫌な意味での、予想通りの展開。やっぱりかよ! と心の内で叫びながら──
「これじゃあ、東日本大震災の時の繰り返しじゃないか……!」
「今回の件、既に多くの犠牲者も出ている。現場の自衛官の皆さんもカンカンだったぜ……。だがよ坊主、一緒に来い」
義辰はそう言うと、隆義の肩に手を置く。
「いいか、真面目な話だ。ここじゃあ、ちょっと話しにくい」
「あぁ……解った」
普段のおちゃらけた様子はどこへ──セーラー服の一同はそれを見て、何故か唖然とする。
それ程までに、義辰は、真面目な口調で隆義に語り掛けていたのだ。
二人はそのまま、廊下を進んで行く。
「あの……」
妙子とその娘の双子たち、魔女のような少女──それらの隣を足早に通り過ぎ、二人はそのまま病院の外へと向かった。
病院の外は、午後の日差しも和らぎ、夕方になりつつある。
午後三時も後半か、四時──隆義は日の傾きから、そう予想する。
風に吹かれながら、義辰は周りを確認すると、タバコに再び火を灯した。
「さて、坊主──さっきの話の続きだ」
「話にくい内容の話って……」
義辰は、紫煙をゆっくりと吸い、そして風の中に吐き出す。
辺りにタバコの煙のにおいが漂い、風に流されていく……。
最初のコメントを投稿しよう!