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同時に、エニアックはペダルを踏み込み、スロットルを全開位置へ。
たちまち、ジャグリオンはホバー走行を始め、敵地である橋の向こうへと渡って行った。
時を同じくして、こちらは──
「……」
気を失っていたのか。
隆義は、ぼやけた視界の中でそう思いながら、その眼を開いた。
見慣れない天井と、灯りがついていない蛍光灯、周りはカーテンで閉め切られているようだ。
「!」
上体を起こそうとして鳩尾に痛みが走り、隆義は顔をしかめて手を当てる。
が、そこに違和感を感じ、何かと思いながらシャツをめくったが──。
「湿布……?」
分厚いガーゼとも、湿布とも思える物。
それが、隆義の胸と腹の間……鳩尾のあたりに貼られていた。
さらにそれを抑える右腕にも包帯が巻かれている事に気付き、隆義はまた、深くため息をつく。
──またケガかよ。
最も、体に負ったダメージは、ある意味で「身から出た錆」なのだが。
視界はまだぼやけているが、とりあえず意識が回復した今、あれからどうなったのかが気にかかる。そう思った隆義は、不安を感じつつもカーテンに手を触れた。
シャッと音を立てながら、カーテンを小さく開く。
午後の陽気を顔に浴び、隆義は思わず目を瞑った。片目を薄く開こうとするが、目が慣れるまでには少しかかりそうだ。
そこに、カラカラと静かに扉が開く音が聞こえ──反対側のカーテンが、大きく開く。
「……?」
一体誰だ──隆義はすぐに音の方向へ顔を向ける。
顔が強い光から逃れた事で、幾分か目が楽になった隆義は、ようやくその寝ぼけ眼を開く事ができた。
「こころちゃん、来てー。彼、意識が戻ったのー」
目の前に居る髪の長い少女はそう言うと、引き戸の外へ向かって手招きする。
「奈穂ちゃん、ありがとー。菊花さん、こっち!」
返事が聞こえた直後、隣の部屋から足音が二人分。かなりの急ぎ足だ。
「隆義ー!」
「たかよし、だいじょうぶね!」
いや、三人だ。
菊花の後ろから、きゅーちゃんが顔を覗かせている。
「姉ちゃん……(それに、きゅーちゃん)」
半分放心状態のまま、隆義は呟いた。
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