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再びツッコミを入れたきゅーちゃんは、声がした方向を向いた。
「……!」
「……どうしたんだよ」
「たかよしもどってぇぇぇ! たましいでとるぅぅぅぅぅ!」
隆義が自分の状況を確認しようとする前に、きゅーちゃんは慌てて隆義をその肉体へと押し込む。
何かの強烈な力で吸い込まれるような感覚を感じた隆義は、そのまま暗闇の中へと落ち込んで行く。
「おぉい……何なんだよ、こりゃ……ぁ……」
そう思いながら、隆義の意識は薄れ、闇の中へと溶けていく。
まるで深い眠りに落ちていくような感覚と暗闇が、目の前を埋め尽くしていった……。
時を同じくして……。
早朝、山陽自動車道で立ち往生していた機動隊は──。
「何とか、バスと合流できましたね……」
「あぁ、これで移動がだいぶ楽になる」
機動隊の隊長は、ほっと一息をつきながら、青い装甲バスの車内へと入って行く。
その後ろから、これまで徒歩で広島市を目指していた隊員たちが、次々と続いていた。
立ち往生した車列をどかせながら、彼らはずっと進み続けていたのだ。
ただし、その移動速度は遅くならざるを得なかったが──。
今、広島市へ向かう道路は道が空き、そして広島市から離れる道は……。
「街を離れる車が、やけに多い……」
隊長は席に座りながら、窓を覆う鉄枠越しに外を眺めた。
歩道には人が溢れ、車も渋滞し、文字通り広島市から逃れようとしているようにも見える……。
「情報は何か入ってきているか?」
「今の所、連絡はありません」
「……車の無線は使えるか?」
「どうぞ」
運転手の隊員が、隊長に無線機のマイクを渡す。
そして、隊長はすかさずそのスイッチを入れた。
「こちら警機マルロク、本部応答願います」
マイクに向かい、はっきりとした口調で話す隊長だが……
「こちらマルロク、本部──」
無線機からは、何の返事も返ってこない。ただ、ノイズだけが響くばかりだ。
「どうしたんだ……故障か?」
「無線機は、つい先週に修理したばかりです……おかしいですね」
それを聞き、隊長は不穏なものを感じた。
「一旦、停めろ。……他の車両の無線機もチェックするぞ」
何故か、額からは不快な冷や汗が流れている。
間もなく、装甲バスは後続を誘導しながら路肩に停止した。
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