8.思惑の立体交叉

5/20
前へ
/20ページ
次へ
 再びツッコミを入れたきゅーちゃんは、声がした方向を向いた。 「……!」 「……どうしたんだよ」 「たかよしもどってぇぇぇ! たましいでとるぅぅぅぅぅ!」  隆義が自分の状況を確認しようとする前に、きゅーちゃんは慌てて隆義をその肉体へと押し込む。  何かの強烈な力で吸い込まれるような感覚を感じた隆義は、そのまま暗闇の中へと落ち込んで行く。 「おぉい……何なんだよ、こりゃ……ぁ……」  そう思いながら、隆義の意識は薄れ、闇の中へと溶けていく。  まるで深い眠りに落ちていくような感覚と暗闇が、目の前を埋め尽くしていった……。  時を同じくして……。  早朝、山陽自動車道で立ち往生していた機動隊は──。 「何とか、バスと合流できましたね……」 「あぁ、これで移動がだいぶ楽になる」  機動隊の隊長は、ほっと一息をつきながら、青い装甲バスの車内へと入って行く。  その後ろから、これまで徒歩で広島市を目指していた隊員たちが、次々と続いていた。  立ち往生した車列をどかせながら、彼らはずっと進み続けていたのだ。  ただし、その移動速度は遅くならざるを得なかったが──。  今、広島市へ向かう道路は道が空き、そして広島市から離れる道は……。 「街を離れる車が、やけに多い……」  隊長は席に座りながら、窓を覆う鉄枠越しに外を眺めた。  歩道には人が溢れ、車も渋滞し、文字通り広島市から逃れようとしているようにも見える……。 「情報は何か入ってきているか?」 「今の所、連絡はありません」 「……車の無線は使えるか?」 「どうぞ」  運転手の隊員が、隊長に無線機のマイクを渡す。  そして、隊長はすかさずそのスイッチを入れた。 「こちら警機マルロク、本部応答願います」  マイクに向かい、はっきりとした口調で話す隊長だが…… 「こちらマルロク、本部──」  無線機からは、何の返事も返ってこない。ただ、ノイズだけが響くばかりだ。 「どうしたんだ……故障か?」 「無線機は、つい先週に修理したばかりです……おかしいですね」  それを聞き、隊長は不穏なものを感じた。 「一旦、停めろ。……他の車両の無線機もチェックするぞ」  何故か、額からは不快な冷や汗が流れている。  間もなく、装甲バスは後続を誘導しながら路肩に停止した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加