8.思惑の立体交叉

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 その不穏な空気は、周りの人々も感じ取っている。 「どうしたのかしら……カーナビが映らないわ……」 「おかーさん、ラジオきこえなーい」  横を通り過ぎる車も、カーナビゲーションの画面やラジオが、ノイズだらけになっているのだ。 「どうしたんだよ……午後になってから、スマホがずっと圏外のままだ……」 「俺のガラケーもだよ……」 「え、お前今時ガラケーなの!?」 「古いモンを大事にしてるだけさ。……けど、参ったぜ。中継局でもやられたかな?」  そして、人々が持っている端末は……ノイズに覆われて見えないが、ニュースが流れている。  午後の報道ワイドショーが、全局で一斉に、広島市で起きた新島組による占領騒ぎを報じているのだが──。  一部の報道局のカメラは、国会議事堂の中にあった。そこは今、議論と同時に喧噪に包まれている。 「広島県広島市が、謎の武装組織に占領されてから一夜が経過しています。しかし、総理……貴方は警察庁に機動隊出動を命じただけで、対策本部を立てようとも、情報を集めようともしていない。──何故でしょうか」 「……」  内閣総理大臣・管山 一郎は、ただ額に脂汗を浮かべて黙っている。  今、彼が置かれている状況はこうだ。  ──広島で起きた事態に対し、目立ったアクションを起こさなかった事で、野党落ちしたかつての大手・自由民政党から質問と追及を受けている。 「たかだか、いち暴力集団ごときが暴れたぐらいで、何故そこまで君達に言われねばならんのだ」 「既に事態は、我が国の主権、何よりも国民の命がかかっています。いち暴力集団が起こした騒乱と言うには、あまりにも事が大きすぎるのです」  今、管山に対し、説得するような口調で話しているのは──自由民政党の斎藤という男だ。  かつて陸上自衛隊イラク派遣部隊を率いた元自衛官。現在は退役し、議員となっていた。 「それで、どうしろと言うのだね」 「広島県警察本部、そして第六海上保安庁本部からの連絡は途絶えました。報道各局の取材ヘリが彼らに撃墜され、軍隊並みの武装をもって広島市を占領しているという確かな情報が入っております」  こうしている最中も、辺りはどよめいていた。  主として、現在の政権与党・民主人民党の席から──。
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