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そのふてぶてしい態度に、自由民政党の若手議員が立腹したのか、勢い良く席から立ち上がる。
「お、落ち着いてください!」
だが、感情を察した警備員が、慌てて彼らを阻止した。
「これが落ち着いてなどいられるかッ!広島で、どれだけの人が苦しんでいると思ってるんだ!」
「総理ッ! 考え直してくださいッ! 広島に住む国民を見捨てるつもりですかッ!」
管山はそれらの言葉を無視し、議場の扉を開いた。
民主人民党の議員たちが、次々と後に続いて議場を去って行く。
そして、怒りに駆られた自由民政党の若手たちは、警備を振り払おうと必死にもがいた。
「静かに!」
途端に、鋭い声。それに驚いたのか、若手たちが動きを止める。
「落ち着くんだ……」
静かに語りかけながらマイクを握る斎藤の手は、力が籠っていた。
管山と、民主人民党の議員たちは、足早に国会議事堂の外へと出て行く。
「車は!?」
「出てすぐの所に待たせてあります」
秘書の答えの通り、議事堂のすぐ外でリムジンが待機している。
今、その大きなドアが開かれ、菅山は後ろの座席に座った。
「出せ!」
座るなり運転手に一声をかける。
「はっ!」
返事と同時に、地面にタイヤが削られる嫌な音が響き、この黒い高級車は門へと一直線に進んだ。
「──愚か者どもが。たかがヤクザ者の騒乱、警察に任せてほっとけば良いではないか」
小さな声で、呟きを吐き出す。
「それに、広島市は自由民政党が力を持っている選挙区だ。我々を支持しない選挙区に用など無いわ」
それを聞いた壮年の運転手は、ニヤリと笑いながら──
「早くも次の選挙対策──ですかな?」
バックミラー越しに、管山の表情を覗いながら言った。
しかし、管山に動じる気配は無い。
「その通りだ。今の地位、失うわけにいかんのでな」
それどころか、薄ら笑いを浮かべ、ククク……と嘲るように笑う。
彼らが乗る黒いリムジンは、総理官邸へと向かっていた。
民主人民党は、国会の会議から突如として退席……その様子は国会中継で全国に流されている。
しかし、中継を見ていた人々は、それに別段驚く様子は見せなかった。
彼らが、これまで何度もこの「途中退席による審議拒否」という戦術を使ってきたからだ。
だが……今ここに、中継を見守り、諦観の深いため息をつく老人の姿があった。
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