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「会長──」
「管山君がこうする事は、解りきっていた事だ。……斎藤君は私の頼みを聞いて、自分の成し得るできる限りの事を尽くしてくれた」
彼は執務室のデスクの上、しんと静まり返った国会の様子を映し続けるモニターを見つめる。
桜小路財団会長──桜小路 玄徳(さくらこうじ げんとく)、経済界の名だたるトップリーダーの一人だ。
「これから、どう致しましょうか……? 沢村財閥と風宮財閥は、自衛隊の出動を抜きに独自に動く様子を見せております」
「うむ……」
秘書から他の財閥の動きを聞き、桜小路は思案する。
「彼らとの一致合意により組織したJ.C.M.D.F……。日本文民・民間防衛隊だが……できれば私は、民間人の血は、これ以上流れてほしくないと考えている」
その言葉を発する口は、重い。
「……だが、管山君が頑として話を聞かない以上、人々が平穏を取り戻す為に血を流す事は、避けられない事態となるだろう」
相手は犯罪を躊躇わない暴力集団で、しかもそれが軍隊並みの武装をして街を占拠しているという現実。
桜小路は祈るように静かに手を組み、なおも思案を続けた。
「問題はこれからだ。国家の危機に際して、政治を行う者──為政者が動かないとなると、我が国のみならず世界の歴史を見れば、何が起きるか──」
「会長……」
「沢村君と風宮君に、連絡を取ってくれ。今後の事を話し合う為、会談の機会を設けたい」
「承りました……。それでは、報告をお待ちくださいませ」
「頼む……」
執務室を出る秘書。
彼の姿を見送った桜小路は、視線を再びモニターに向けた。
同じ放送を映すモニターを通して、所は別の場所へと移る。
「やはり、奴は動く気など無いようだ……」
切れ長の鋭い目が、画面を睨む。黒いカーテンで閉め切られた暗い部屋の中、灯りはモニターだけ……。
そんな中で、男はぽつりと呟いていた。
「政(まつりごと)が、この有様では──」
「このままでは、新島とか言うヤクザ者が、ますますつけ上がりますぞ」
後ろから、数人の話し声が聞こえる。
「自由民政党も、もはや与党であった頃の力は無いようだな」
「当然です、この日の本が神国である事を理解せぬ愚か者どもが、売国奴たる民主人民党に政を売り渡したのですから……」
「その者どもは、これから後悔する事になりましょうぞ」
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