サクラは特別

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「サクラちゃん、おかーさんむかえにきたよ。かえろ?」 「ゆーくん…サクラっていわないで」 「どうして?」 「イヤなの!!」  泣いて、そっぽ向いた私の手を引いてゆーくんは庭に出た。そして、大きな木を指さす。 「これ、キレイでしょ」 「うん、キレイ…」 「サクラっていうんだよ」 「へ?」 「サクラっていう名前なんだって」 「そうなんだ…」 「うん。サクラちゃんと、おんなじだね」  わたしとおんなじ?  おっきくて、キレイなこの木が、おんなじ…。 「でも、いっぱいお花、おちちゃってる」 「また咲くからだいじょうぶだよ」 「またさくの?」 「そうだよ。せんせー、いってた」 「そうなんだあ。じゃあゆーくん、また一緒にみてくれる?」 「うん。また一緒にみよう」  クスッ。  思い出して笑うと、隣を歩くゆーくんが、不思議そうな顔で私を見た。 「ねえゆーくん」 「なに?」 「今年も一緒に桜、見よーね!」  きょとん、とした顔のあと、ゆーくんはそっぽ向いてスタスタ歩いていってしまった。 「わっ、待って、ゆーくん!」 「…別に」  すっかり背が伸びたゆーくんの背中からは表情が見えないけど、 「別に、そんな約束しなくたってどうせ一年中一緒に居るだろ」  きっと、すごく優しい顔をしてるんだろうな。 「うん!」 「ん、もうすぐ電車来るぞ、紗倉」  桜の季節には、幼なじみ以外にもう一個、肩書きが欲しいな~。  なんて、言わないけどね! 「ただいま」 「あら、お帰りなさい。紗倉ちゃんは?もう帰ったの?」 「うん」 「あんたはもう、カメラばっかり見て…紗倉ちゃんは女の子なんだから、ちゃんと見ててあげないと」 「わかってるよ」  どうせレンズ越しにだって 「あー…またサクラの写真ばっかり増えた」  俺は昔から、サクラばかり見ている。  
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