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昴の声に、それでも母は努めて冷静さを装って、少しばかりの笑顔を添えて言葉を返してくれた。
「まだ…トラックに乗ってなかったの?」
咎める口調に少しだけ肩を竦めて、昂はゆっくりと口を開いた。
「あのね、いつか…またここに戻って来られるよね?」
「昂…」
瞳を凝らすようにして見詰め返されて、昂は勢い込んで思っていたことを口走った。
「僕が大人になったら…また皆んなで住めるようにしてあげるんだ…だから、それまで…」
待ってて欲しい…その言葉を昂は飲み込んだ。なぜなら、瞳に涙を溜めた母の姿に、言えなくなったからだ。
「…昴」
ゆっくりと首を振りながら…それは、明らかに否定であったのだけれど…『ありがとうね…』とだけ言い、それを無駄なことだと母は言わなかった。
「おかあさん…僕、いけないこと言ったの?」
もしや、自分が母にとって都合の悪いことを言ったのではないか?そんな不安に駆られて、昂は聞いた。しかし、母は首を振るばかりで、何も言いはしなかった。
それでも…。
昂は気が付いた。きっと、自分には想像も付かないほどのお金が入り用だったのだと。
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