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「左京」
「咲」
また止めるように呼ばれた咲の名前。
そんなに心配しなくても大丈夫なのに、と咲はくすりと笑った。
安心させるように、左京の後ろ頭をぐっと押して澄んだ空を見上げる。
「私、左京のこと嫌いじゃないよ」
左京からの返事はしばらく返ってこなかった。
ため息をついたように、触れ合った背中が揺れる。
「…オレも咲が嫌いじゃないよ」
それに咲は声を上げずに笑った。
これだけしか言えない。
お互いに大切にするべき人は別にいた。
だから決定的なことは例え、今が二人で会える最後だとしても口には出来ない。
言ってしまえばお互いに歯止めが消えると知っている。
言葉にすれば一瞬で、四人全員を不幸にすると知っている。
「オレは咲が嫌いじゃない」
左京が繰り返す言葉を噛み締めるように咲は目を閉じた。
「……嫌いじゃないんだ」
そっと呟くような左京の言葉は咲の胸をひどく痛めた。
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