四、開花

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「さあ、始まった」  お母さん離れて離れて──神主のおじさんが母の腕を引っ張りながら、輪の最前列までずりずりと下がっていく。  糸をぴしりと真っ直ぐ張ったようなその声に背中をとんと叩かれて、胸の中で姉への思いをぐるぐる巡らせていた私は、弾かれたように顔を上げた。  姉は両手を両脇にぴちりとくっつけて、両足をきちんと揃えて棒のように立っている。  でもその姿を目にした直後には、姉の体はぐにゃりと歪んで痙攣し始めた。  よろけて倒れそうになる上体を支えるべく、揃えられていた両足が大きくがばりと開かれる。  足を支えに踏ん張っているようにも見えるが、不安定で危なっかしい。  はらはらしながら見続けていると。  膝丈のスカートの奥、両足の付け根の間から──  黒い木の根っこのようなものが、びゅるりと二三本垂れ下がった。  姉の足と同じ程度の太さの根っこが血や皮肉の破片を振り払いながらゆらゆら動く様子は、まるで人の腹から産み落とされようとしている大蛇のようだった。  そしてそれらの先端はようやく地面を探り当てると、土の柔らかさを確かめるようにぐりぐり動いて、蠢いて、さっそく土中へと頭を突っ込んだ。  股の間からじりじりと出てくる木の根は段々太くなっていき──  やがて姉の胴体と同じ幅になる頃には、一本の幹になっていた。  繊維が千切れる音を立てて、スカートもベストも下着も全てが一気に裂かれて落ちた。  姉の白いお腹は、太く大きく成長していく幹によって今にもはち切れんばかりに張っていた。
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