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三、夜の会話
豆電球の明かりが真っ暗闇の部屋の天井付近を橙色に照らしている。
真下に敷いた二組の布団まで弱々しい明かりはぼんやり届いてはいるものの、それでも何かをするには暗すぎる。
──眠くなるまで何かして暇を潰したい、けど。
仰向けに寝転がったまま、隣の布団でこちらに背を向ける格好で横になっている姉の様子をそっと窺ってみる。
掛け布団は微かに規則正しく上下しているが、眠りについているのかそれともこれから眠ろうと目を瞑っているだけなのかは分からない。
姉の机の上にはつい数時間前に取り上げられた資料本が、まだそのままの状態で置きっ放しになっている。もうこっそり読もうとは思わないけど、強引に中断させられた後の、続きの文章がどうしても気になって仕方がない。
”宿り主”って何なんだろう。
贄桜の種はどこで育つのか。
姉が担った役割は──
「ユリ。起きてる?」
しんと静まり返った室内に、消え入るような姉の呟きがぽつんと響いた。
「起きてるよ」
もそもそと寝返りを打った姉が、私の方に顔を向ける。
姉もどうやら寝そびれていたらしい。
姉に倣って自分もごろりと横を向く。
向き合う形になった私と姉は、何となく物言わず暫く見つめ合った。
「──スズ姉、」
先に静寂に耐え切れなくなったのは私の方だった。
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