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「その、宿り主っていうのがよく分からなくて」
「あんたはまだ分からない方がいいと思うなあ」
結構残酷な事だからと返してきた姉の声音は、からかっている時のそれとは全く異なる、比較的真面目なトーンだった。
「あの本だって、あんたが借りるにはまだ早いと思ってたのに」
「だから取り上げたの?」
「そうだけど、」
こうなると意味はなかったかもねとひとりごちて、姉は短い溜息をついた。
「──そうね。あんたももう中学に上がるんだし、今後は私の代わりに皆のお手伝いとかしていかなきゃならなくなるものね」
宿り主ってのはさあと声が響くと同時に、暗闇が再び、今度は大きくのそりと揺れ動いた。
姉が半身を起こしたらしい。
なんだか深刻な話になりそうな気がして、つられるように私も身を起こす。
「そんなに難しいものじゃあないのよ。あんたが借りてきた本は私も前に読んだ事がある。大仰に書いてあるけど要は、ええと、”生贄となる人間を一人選んで種を呑み込ませて体内で育ててもらう”って、ただそれだけの事なの」
だから頭の良さとか技術とか全然関係ないみたいよと、まるで他人事といった調子で姉は手短に説明を終わらせた。思っていたより深刻さのない、淡々とした解説だった。
「スズ姉は、その生贄っていうのに選ばれたってことになるの?」
「そういうことになるのかな」
宿り主と生贄とはまた意味が異なってくる気がするのだけれどとか何とか、姉は口の中でぶつぶつ呟いていたが、まあいいや、という言葉だけ零して再び仰向けに転がった。
「ああ、そういえばあんた、あんまり神社に行かないもんね」
「だって行くような用事もないし、おみくじ引くぐらいしかする事ないもの」
神社を毛嫌いしているというわけではなく、ただ単純に興味が湧かないとそれだけだ。
贄桜自体と縁がないのもまあ仕方ないかと、姉は一人で何やら納得したようだ。
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