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ダメだ…… また彼女を物ほしそうな目で見つめていたことに気付く。 戒め、すぐに目を逸らした。 それなのに…… 彼女は僕に唇を近づけ、優しく重ねた。 彼女の香りがした。 子供のころいつも近くにあったその香りが懐かしかった。 頬に添えられた手はか細くて、冷たくて、震えていた…… 「どうせあなたからはしてくれないでしょ」 拗ねたような、甘えたような口調に僕は答える。 「才華様、どうゆうおつもりなんで___」 最後まで言い切らないうちにもう一度、唇が重なり言葉を奪った。 そのキスに衝動が抑えられなくなり彼女の唇を吸った。狂ったように彼女が欲しくて欲しくて、しょうがなくなり、唇だけにとどまらず、頬も、耳も首筋にも自分のものだと言わんばかりにキスを落とした。 そのうちに、彼女の手も身体も熱を帯びた。 そして、僕は彼女を抱いた。   腕の中の温かく柔らかな塊を壊さないように抱きしめて生まれて初めての幸福感に浸っていた。 その時、彼女が言った 「明日、許嫁と結納を迎えるの…」 「……」 今はこんなにすっぽりと僕の腕の中にいるのに、彼女はどうしたって僕のものにできない…それに気が付き、言葉を失った。 身分の低い自分が彼女をどうこうできる訳がないのだ。 「……」 最後の最後にこんな仕打ちをして、やっぱり君は残酷だ。 「それがこの家の仕来りだから……」諦めたように彼女はそう言ってから明るい声を作り直し「もし生まれ変わったら、今度こそ一緒になりましょう」と続けた。 その姿はあの時の彼女と重なった。 『仕来り』にに抗うことができず、どんなに悲しんでもそんな事はおくびにも出さず、虚勢を張る。今度は僕の見つけられないところで涙を流すんだろう? 今、手放せば二度と触れられないところへ行ってしまうのだと思った。 「そんなのだめだ、現世でも来世でも一緒になろう」 この感情をもう止めることはできない。 僕は抱きしめていた彼女から少し体を離して、真っ直ぐに見つめた。 「君のことさらうよ、いい?遠くにげよう」 彼女の瞳は一瞬戸惑い、それでもすぐに頷いた。 「じゃぁ、明日の夕刻迎えに来る。闇に紛れて逃げよう」 少ない財産を売り払いありったけの金を集めて僕は明日、彼女を迎えに行くと決めた。 そして、遠くでひっそりと暮らそう。
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