甘美ノ桜（かんびのさくら）

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日差しが温かくなったかと思うと不意打ちのように凍てつく寒い夜が来る。

夜中にパラパラと雨音がして目を覚ました。
こんな夜は無性に寂しくなる。

私は少しだけ障子を開けて、その隙間から庭の桜の木を眺めていた。

まだ花のつぼみさえついていないのにやはり美しいと思った。

廻り廻るたくさんの時代を過ごしてきたはずなのに、その桜の枝先は少女のかぼそい指のように寒さに震えていた。

やっと、朝日が庭を照らすと枝先の雨粒が光った。

「今日はお早いお目覚めですね。すぐにお着替えをご用意します」

起きている私に気が付くと、使用人は慌てて世話を始めた。