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凛がいなくなったことに結が気づいたのは、飛び出して半時ほど過ぎた頃だった。
自分が追いかけるよりもまず将治に伝えるのが先と考え、
屋敷に向かい事の次第を将治に説明した。
「あのバカが!」
そう言い捨てると、将治は馬で凛を追いかけた。
閉じ込められたままでロクに歩いたことすらない凛の足では、
半時とはいえたいした距離は歩けない。なのでさほど苦労もせずに見つけ出した。
いきなり目の前に馬に乗った将治が立ちはだかったのでギクリとして駆け出したが、
すぐに捕まり馬上へ引き上げられた。
「なにをしてる、バカが!」
「イヤだ! 離せ!! あんなところ戻りたくない!」
「おれから逃げ出してどこへ行くつもりだ」
「どこだっていいだろ、とにかくあんなとこまっぴらだ!!」
この気性はわかっていたのだからどうにかしておくべきだった、
と今さらながらに将治は後悔していた。
「どこへ行こうがどうせ前の村と同じ扱いだ、それよりおれのところへいた方がましだろうが」
「あんなことされるぐらいなら牢の方がましだ!」
ここまで嫌悪されるとはさすがに思っていなかった。
「だから、慣れればおまえもじきに好きになると言ってるだろう、少しの間だけ辛抱しなさい」
「馬鹿馬鹿しい! 好きになんかなるもんか!!」
将治は深いため息をついた。
「とにかく騙されたと思って少し我慢しなさい」
「イ・ヤ・だ!!」
「ああ、もう! 面倒な!」
そう言うと将治は馬首を巡らし馬に鞭を入れ庵へと走らせた。
言葉を尽くしたところで凛が納得するはずもない。言うだけムダなのだった。
凛は嫌がって暴れたが無理矢理庵へ戻し、逃げられないよう大黒柱に腕を縛り付けた。
「おとなしくできるまでしばらくそうしてろ」
そう言い捨てると屋敷へ帰っていった。
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