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柄は気に入らないが、絹の着物の肌触りは申し分がなく心地よかった。
将治は自分の物でさえ綿であるのに、凛には最上級の絹を買い与えていた。
ものを知らない凛はそれがどれほど高価なものか理解していなかったが、
良い物であるということだけはわかった。
世話をしに来た結の着物を触ってみたがザラザラとした綿だった。
「なんでこの着物はツルツルしてるんだ?」
不思議に思って結に尋ねてみた。
「それは絹のお着物なのですよ」
「絹?」
「ええ、将治さまはご自分でも絹などお召しにならないのに凛さまのために
高価な反物をご用意なさったのです」
そんな気遣いがあったとは思いもしなかったので凛は驚いた。
「……高価ってどのぐらい?」
「反物ひとつで何十俵も米が買えるほどです」
「俵ってなんだ?」
それも知らないとは思わなかったので、結も面食らった。
「ああ、そうですねでしたら別の言い方をしましょう、
その反物ひとつ買うお金で一家族が何年も暮らせるほど高価なのです」
その例えならいくら凛でも理解できた。
「なんでそんな、あいつはいくつも持ってきたじゃないか」
「ええ、ですからそれだけ凛さまを大事に思っていらっしゃるのですよ」
信じられない凛は黙って首を振った。
「旦那様は多少乱暴なところはありますが、とてもお優しくて愛情深い方なのですよ」
「あいつが? まさか」
「いえ、本当です、だからこそ民からも慕われているのですし」
慈愛深く寛大な領主として、将治は民から信頼され、慕われているのだった。
彼の思わぬ一面に凛は驚きを隠せなかった。
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