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自分の物しかないので袖も丈も余りまくりだったが、丈だけは紐でくくってなんとかした。
接ぎ当てのない着物など初めてだったので、
その心地よい感触に凛は袖に頬を摺り寄せていた。
「名は?」
「……そんなものない……」
赤子のときに浜辺で拾われて以来、名すら与えられずに生きてきたのだった。
「だったらおれが付けてやろう、そうだな……凛にしよう、おまえの名は凛だ、いいな」
「りん?」
「そうだ」
凛はもう一度小さく自分の名前を繰り返してから将治に目を向けた。
「おまえは?」
「将治、結城将治だ、だがおまえは旦那さまと呼べ」
上からの物言いに凛はムッとして彼を睨みつけた。
「歳はいくつだ」
「……たぶん15」
思っていたよりも年上だったので少し驚いた。
「ふむ、15なら遠慮はいらんな」
意味がわからず凛は首をかしげた。
「この離れの庵はおまえにやろう、これからここで暮らすといい」
離れとはいえ部屋がいくつもあり、暮らすには十分すぎるほどだった。
「おまえ、何者なんだ?」
「旦那さまと呼べと言ったろう」
従う気がない凛は黙って彼を睨みつけた。
「おれはこの辺り一帯の領主だ」
そんな偉い人とは思ってもいなかったので、凛は驚いて目を見開いた。
「おまえいくつなんだ?」
「旦那さまと呼べ!」
「イヤだ!!」
噛み付くような表情でキッパリと拒絶した。その気の強い様子に将治は笑みをこぼした。
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