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「飯の支度を頼む」
「はい、お待ちを」
結はすぐさま厨へと姿を消した。
待っている間暇なので、気づかれないよう将治を観察した。長身でガッチリとした体つき、
精悍な顔立ち、耳に心地よい低音の声。
なにもかも男らしいのかと思えば指は女のように長くほっそりとしている。
閉じ込められていたせいでどういった顔立ちが美男子か凛は理解していなかったが、
彼には人を惹きつける魅力があるということは本能的に察していた。
結局一言も口をきかないまま時が過ぎ、結が食事を運んできた。
お膳に乗ったちゃんとした食事など初めて目にした凛はそれだけで感動を覚えていた。
凛が箸を使わずに手づかみで芋を食べようとしたので、将治はすぐにその手を叩いた。
「箸で食べなさい!」
「なんだよ、箸って!?」
それ自体知らないとは思ってもいなかったので、さすがに将治も驚いた。
「箸とはこれだ」
お膳にあった箸を凛の目の前に突き出した。
「こう持って、挟んで使うんだ、わかるか」
実際に目の前で実践してそう教えた。
凛は見よう見まねで箸を握ったが、どうにもうまくできない。
将治はため息をつき、後ろから手を回し、キチンと持たせた。
「こう持って、こう箸先を動かして掴むんだ」
手を持って動かしてもらえばできるが、自分一人では思うようにできない。
イライラして箸を鷲掴みにしてそれで突き刺すと、すぐにまた手をはたかれた。
「やめなさい、悪いくせをつけると直すのに苦労する」
ムッとしつつもまた悪戦苦闘をしながら箸を使い始める。
炊き立てのご飯も、熱い味噌汁も、なにもかも初めてでおいしかったが、
箸のせいですっかり食欲が失せた。
「なにをしてる、ちゃんと食べなさい」
まだずいぶんと残っているのに箸を置いたので、そう将治は促した。
「……もういい……」
「なにがいいだ、そんなガリガリのくせをして、飯はちゃんと食え」
「もう食べたくない!」
頑なな様子に将治はため息をついた。
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